これまでを振り返って#10
これまでを振り返ってみようシリーズ第10回目です。
「ハーバードの人生を変える授業」の本の内容を補強したり,各章を関連付けたり,脱線したりしたいと思います。
前回はこちら「これまでを振り返って#01,#02,#03,#04,#05,#06,#07,#08,#09」
今回は<10.理解し,理解される>で傾聴についての本を,おすすめの本として取り上げました。今回は,カウンセリングについて書かれた本,杉原保史の「技芸としてのカウンセリング入門」を取り上げます。
聞くことの重要性と難しさ
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なぜにカウンセリングの本?と思われるかもしれませんが,聴くことを大切にしてる職業の1つであるカウンセラーが,どのような姿勢でクライエントに向かい合っているのかということを,私たちは日常生活に活かすことができると思います。
著者は,カウンセリングについて,「話を聞くだけではダメだ」という立場だそうです。しかし,聴くだけではダメと言っても,聴く以外のカウンセラーのかかわりは,聴く仕事を土台としたその上でこそ十分な効果を発揮するのだと述べています。
また,話し手が何を求めているのか(問題を解決したいのか,評価してほしいのかなど)を判断する前に,話し手の体験を共有することが必要とも述べています。
どんな聴き方をしているの?
著者は,心理援助に携わるカウンセラーの聴き方について,以下の8つを挙げています。
1.ありのままをただ聴く
2.がんばらないで聴く
3.体験を聴く
4.無知の姿勢で聴く
5.声を聴く,態度や様子を聴く
6.問題を解消しようとせず,問題を味わうように聴く
7.優しく穏やかに聴く
8.即座に慰めずに聴く,「目覚めさせる体験」を目指して聴く
-1.ありのままをただ聴く-
クライエントの体験を細やかにありのままに,そのままに聴いて受けとめようとする。クライエントの話の背後に流れる体験の流れを感じ取ろうと意図しながら,リラックスして,自分の心に生じることを生じるがままにし,ただ感受する。
-2.がんばらないで聴く-
力みなく,心を自由にして,ただ聴く。頭を使うというよりは,全身で感じながら聴く。考えるモードではなく,感じるモードで聴く。
-3.体験を聴く-
クライエントが自らの内的な体験に目を向け,それをじっくりと探求するモードに入っていくように助ける聴き方。聴くこと自体によってクライエントの体験探索を促進しようとする聴き方。
-4.無知の姿勢で聴く-
クライエントの心の中の体験は,クライエントにしかわからないので,がんばらず,体験に焦点を当てて,ありのままにただ聴く。この聴き方により,話し手は自然に自分の内面に目を向け,心の中に流れているありのままの体験をじっくりと観察し,味わうようなモード(体験探索モード)に入りやすくなる。
-5.声を聴く,態度や様子を聴く-
クライエントの話の内容を聴くと同時に,クライエントの声を聴く。そして内容によって伝わる言語的・概念的な情報と,声によって伝わる情報との関係に注意を向ける。
-6.問題を解消しようとせず,問題を味わうように聴く-
クライエントが問題を語ったときに,まずは,そのありのままの問題の中にとどまろうとすることが大切。その問題に,その問題のままで,じっくりと身を浸してみること。その問題をありのままに堪能すること。その問題のテイスト,感触,雰囲気をじっくりと味わうこと。
-7.優しく穏やかに聴く-
クライエントの心理的な防衛を緩めること。穏やかで優しいまなざしでクライエントの話を聴く。落ち着いた,価値判断抜きの態度で聞く。
-8.即座に慰めずに聴く,「目覚めさせる体験」を目指して聴く-
つらい体験ではあるけれども真実の体験であって,それを真摯に受け止め,そこから目をそらさずにその現実をありのままに受け止めることが,大きな成長の契機となりうるような体験を目指して聴く。
「目覚めさせる体験」とは,実存的心理療法家のアーヴィン・ヤーロムが用いた言葉。
人はしばしば,死を深く見つめざるをえないような体験を経たあと,それまでの生き方を根本から見直し,大きな成長的変化を遂げます。この変化の契機となった,死を深く見つめさせるような体験のこと。
マインドフルに聴く
著者は,マインドフルネスについて,ジョン・カバット=ジンの説明を引用しています。
- 今この瞬間に,価値判断をすることなしに,意図的に注意を向けること。
- 今すでにそうあるものをただありのままに感じる,努力を伴わない活動。
- 行為するモードから,存在するモードあるいは無為のモードへと移行すること。
- 次の瞬間に今と違う何かが起こってほしいと思う気持ちを放棄して,今ここに立ち止まること。
- 自分の存在の核との親密さを開拓すること。
ではなぜ,このマインドフルネスをカウンセリングに取り入れる必要があるのでしょうか?
著者は,
心を自由にして,どのような心の動きも生じるがままにし,ありのままの心のようすに気づきながら,今ここにただ存在し,ただ聴く。カウンセラーがこうした聴き方を身につけるうえで,マインドフルネスの実践はとても役に立つものだと思います。
と述べています。また,不快であるがゆえに避けることは,さまざまな問題のもとになるとして,
カウンセラーとして持つべきではないと思えるような,自分の中の最悪の部分と感じられるような心の動きでさえ,ありのままにそれに気づき,認めていくことで,カウンセリングの目的に奉仕するものとして利用できるのです。
と述べています。
ありのままを受け入れてみる
話し手の悩みをちょっと聞いただけで,すぐに問題を解決しようとしていませんか?
話を自分の価値判断,自分の体験から解釈を加えていませんか?
- 心理援助に携わるカウンセラーの聴き方(8つ)を実際に試してみる。
- 試してみて,良かった点,改善点を書き出してみる。
豊かな人生を受け入れる
著者は,苦みやざらざら感や不気味感のある体験も大切であるとして,
楽しいこと,嬉しいこと,愉快なこと,心地良いことなどの肯定的な感情だけでは,人生は豊かになりません。つらいこと,苦しいこと,恥ずかしいこと,落ち込むこと,悲しいことなどの否定的な感情がただありのままに体験されることは,とても大事なことなのです。
述べています。
<07.困難から学ぶ>の中でタル・ベン=シャハーは,
何よりも大切なのは最も深いところにある感情や思いと向き合うことです。
と述べています。
また,<15.感情を味わう>のリフレクションもおすすめします。
ここでの登場人物
- 杉原保史
- ジョン・カバット=ジン
- タル・ベン=シャハー